各話についてのちょっとしたコメントです。
少なからずネタバレを含みますので、ご注意下さいませ。

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序章 終りと始まり
語られる歴史  双伝の世界設定を簡単に説明するための回。原作を知らない人にとっては最低でもこれくらいの情報が無いと、プロローグがまったくの意味不明になりかねないために書いたものです。原作を知る人なら色々と引っかかる単語があるかと思いますが、別に年代を覚えている必要は全くと言っていいほどありません。
 これが後に障害とならないよう願うばかり……(苦笑)。

 侵攻により魔王の存在を知ったアリアハン、サマンオサ両国は、魔王討伐のため救国の英雄に望みを託す。彼らは『勇者』と呼ばれ、国、世界の期待を背負いながら旅立って行った。
終りと始まり  一つの物語が終り、一つの物語が始まる回。イメージはSFC版ドラクエ3のデモです(勿論多々脚色はしていますが)。色々と伏線っぽいものがチラチラしてますが、この時点では何のことやらさっぱりですね。あまり上手な伏線の使い方ではありません。あまり気にしないで下さい。

「陛下」
 凛とした、力強い声が響いた。
 ゼフィリアは顔を上げる。その眼前には、まだ十にも満たない、幼い少年が跪いていた。突然の行動に驚きつつ、王は彼に尋ねる。
「どうした。シーザ?」
 オルテガの息子、シーザは、その年齢にそぐわない精悍な眼差を向けた。それに込められているのは、強い意志。
 彼は表情は変えないまま断言した。
「ご安心下さい。魔王バラモスは私が討ちます」
一章 鳥が羽ばたく
巣立ちの儀式  ようやく主人公が旅立つお話。のっけから地の文が多くて多くて悲しくなってきますが、そういう回なのです。シーザが一体どういう考え方をする奴なのか、周りからどう見られているのかを重点的に描写しています。

 それは一人の人間に命じるには、あまりに荷の重いものだった。しかし、他に術が無いのだ。事実、アリアハンの騎士団で敵わなかった魔物の群れを退けたのは、オルテガというたった一人の男だったのだから。
 シーザはその言葉に表情を変えることなく、
「はっ。必ずやこの手で、魔王バラモスを討ち滅ぼします」
 何とも簡単に言った。その顔には、なんら気負う物など無いかのようにただ無表情を保っている。
選びし者  面接話。話の特性上この話だけ異様に長いですがお気になさらず。
 ルイーダの酒場で仲間を集める際、魔王討伐の仲間がレベル1ってどうなんだと考えた結果、この面接話が生まれました。書いててなかなか楽しかったのですが、読むにはちょっとテンポが悪いかもしれません。

「それで、何人くらい連れて行くつもり?」
「有能な人間がいるならばいくらでも連れて行くし、いなければ一人でも行くさ」
 さらりと言うと、シーザは紅茶を飲み干し、立ち上がる。そのまま今度は空いているテーブルに着き、淡々と告げた。
「今から面接を行う」
選ばれし者  初期メンバー決定の回。前回が異様に長かった反動を受け、極端に短くなっております。『選びし者』で仲間になる三人を予想してもらいたいなぁと思っていたのですが、いかがだったでしょうか。

「……魔王なんてどうでもいいからさ、ちゃんと生きて帰ってくるのよ」
「ああ、無論だ」
一章裏伝 もう一つの旅立ち
選ばれにし者  裏伝開始。そんなに色々やって本当に終わらせられるのかよと自分で自分にツッコミつつも、せっかくの構想を無駄にするのは忍びなく。
 この話は勇者シーザを主人公とした双竜伝承の裏の話です。主人公は僧侶クローディオル。そのため、かなりダークな話になると思います。

 時折本編と交わったりすると思いますが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

 勇者は周囲から一身に期待を受けた、世界の希望を背負った戦い。
 対する自分はただただバラモスの死を望むだけの、誰からも疎まれ目を背けられる戦い。

 勇者が光なら自分は闇だ。目指す場所は同じでも、いきつくまでの道程、いきついたその先に続く道は、全く違う。

 勇者が目指す道は、世界を救うための希望の道。
 自分が目指す道は、魔王を殺せばそこで途絶える絶望の道。

(それが交わる筈もない)
一先(ひとま)ずの指針  裏伝第二話。短いわりに執筆に時間がかかったのは、スケジュールのせいでもあり、話の内容が薄いせいでもあり、二つ名を考えるのに苦労したからでもあります。とりあえず、自分のネーミングセンスの無さを改めて実感。
 バコタ=小太助は完全に自分の中でネズミ男と化しました。ネズミは好きですが、ネズミ男は嫌いです。でもバコタはありふれた三流っぽさが出ててわりと好き。
 裏パーティは表パーティ以上に人間関係に問題あり。この先改善されることは果たしてあるのやら。

 どの道、明確な進路は無いのだ。世界の情報が集まる都市。一先ずの指針としては、これ以上に相応しい場所は無い。
「では、まずはアッサラームを目指すということで、依存無いか?」
 言葉に二人の女はそれぞれうなずく。

 勇者に選ばれなかった者達による、魔王討伐パーティ。三人の旅は、ここからようやく始まった。
二章 こころみ
剣、交える  グラフトのこころみ。プロローグを除けば本編初の戦闘シーンです。こころみ三編は仲間キャラ三人がどういった人物なのかを描写するために書きました。シーザとグラフトの今後の関係を表した回です。

 黒髪黒目、旅装に身を包んだその体はまだ未成熟で、女性のように細い。端正な顔立ちに表情は浮かんでおらず、感情の起伏が一切見られない。オルテガとはまるで正反対だ。オルテガの息子、そう聞いて想像していた人物像とはかけ離れた印象だった。
(だが、オルテガの息子であることに違いは無い。ならば……)
「待て」
 前進しようとしていたシーザは再び振り向いた。自分の方へ。
「手合わせ願う」
言葉、交える  イクスのこころみ。色々と探りあい的な会話をしています。シーザとグラフトの所為でパーティ内がまだ落ち着いていません。もうしばらくすれば雰囲気も整うでしょう。多分。
 四人のそれぞれの役割がはっきりしてくる回。

「それじゃ、これだけは黙秘しないで話してくれるかな」
「何だ?」
 イクスはシーザを真正面から見据えると、真剣な口調で語りかける。
「何で、この三人を選んだ?」
心、交える  アリアのこころみ。シーザやりたい放題の回です(笑)。アリアハン周辺の魔物は弱いので戦闘シーンはかなり短め。シーザはこの回辺りで好き嫌いが分かれるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。

――彼はあくまで淡々と言った。
「殺してみせろ」
儀の始まり  こころみ三編が終り、次の話へ繋ぐ中間帯的な話です。賢者についての詳しい事情が解ります。凄く意味ありげないかにも伏線っぽい言葉がぽつぽつと出てきます。いかがわしいですねぇ(謎)。
 書き終えた後、とある人物が一言も喋っていないことに慄然としたりしました。

「……シーザ」
「はい」
「お前の心は、お前のものだ。お前の下した決断は他の誰でもない、お前の意思によるものだ。それを決して忘れるな」
 ナジミの言葉は、しかしシーザには意味が解らなかった。
二章外伝 冷たく鋭く
冷たい瞳  シーザの過去話そのいち。彼がなぜああなのかという片鱗が垣間見られます。アリア視点が多いのは彼女の役割のためです。二章3でやりたい放題なシーザの補完話でもあります。

「あの女性(ひと)を見て、シズ様は……悲しいと、可哀相だと思わなかったのですか?」
 見つめるアリアに、シーザは視線を逸らすと、小さく呟いた。
「……そんな感情(もの)、とうに忘れた」
鋭い切先  シーザの過去話そのに。彼の行動原理の根底にかかわる部分です。序盤で書くべきかどうか悩んだのですが、それもありかなぁ、と。駄目かなぁ。どうでしょうか? 問題提起(?)は早い方が解りやすいんじゃないかと思ったのですが。
 視点の転換がすこぶる多いです。読みにくかったら申し訳ありません。

 自分は(つるぎ)だ。魔王の胸を穿つための。

 シーザは感情と引き換えに、自らを剣と化した。冷たく、鋭い、破邪の剣に。
三章 遠望心慮
(しるべ)指す道
 ようやくここから旅の始まりとなります。始めっからいきなり最終目標が明確に提示されてます。謎も何もあったもんじゃないですね。いや、ある意味では謎だらけなのですが。
 明確な目標があった方がストーリーを見る上では解りやすいと思うのですが、どうでしょうか。

 ――魔王によって世界が暗黒に包まれた時、神々は力を合わせ、一つの命を創られた。

 太陽神ラーは絶えなき活力を。
 地母神ガイアは不変の肉体を。
 海神ネプトゥヌスは揺らぎなき安定を。
 風神ハヌマーンは空を制す翼を。
 雷神バールは溢れる知性を。
 そして精霊神ルビスは清浄なる心を、かの命に与えたもうた。

 その命はルビスによって『ラーミア』の名を与えられる。

 聖鳥ラーミアは雄大なる翼をもって大空を制し、浄化の息吹によって不浄なる闇を吹き払う。ルビスの使徒はラーミアと共に魔王への道を切り開いた――
惑う夕暮れ  次章への繋ぎ的な話。設定が矢継ぎ早に出てきてますが、理解不能だったらごめんなさい。自己満足と言われても仕方ないですが、人間が魔物に対して対抗するにはこれくらいの設定が必要だと思うのですよ。さまようよろいを素手で相手にしようと思うなら。炎やら熱線やらを受けても生きていようと思うなら。
 ちなみに、これでも必要最低限の設定しか出してません(爆)。

 自分より一回りも年下の、まだ成人したばかりの、旅に出て一月足らずの少年。
 そして魔王討伐のパーティを率い、周囲の期待を一身に背負い、平然と類まれなる力を発揮する少年。
 そのことを意識して、グラフトは劣等感を抱かずにはいられなかった。
四章 喰い合う獣
獣の掟  カンダタ戦開始。本当は一編に収めるつもりだったのが、いつの間にやら三話分の文量になってました。400字詰め原稿用紙にして約102枚。どうりで書いても書いても終わらないはずだ……(苦笑)。
 長い話を三つに分割したので、思わせぶりなところで途切れています。文量も後半になるほど長くなってます。バランス悪いですね。
 パーティ最初の苦戦です。かなり気合入れて戦闘シーン書いてます。どうですか?(謎)

「うげ」
 イクスが嫌そうに呻く。
 なぜ一見して相手の体つきが解ったか。それは、男が殆んど半裸姿であったからだった。顔には覆面とマントを繋ぎ合わせたようなものをかぶり、下半身は下着に近いものしか履いていない。
(防具どころか服さえ着ていないのは戦闘における自信の表れか……あるいはただの変態か)
 思わず緊張が緩みそうになるのを自制しながら、男に向けてシーザは声高に言い放った。
「お前がカンダタだな」
喰い込む牙  カンダタ戦中盤。カンダタが当初の予定より八倍(当社比)は強くなってしまいました。けど、返ってキャラクターとしては味が出たようなので自己満足。
 視点がころころと変わりながらの戦闘シーン描写はまるっきり初挑戦です。こういう、それぞれが色々と読み合いをしながらの戦い、大好きなのですが、どうでしたか?(謎)

「はい。ごめんなさい」
「謝る必要は無いと言ったがな」
 シーザはどこか憮然としたように言った。
 これは彼なりに慰めてくれているのだろうか。それとも、これも勇者としての演技なのだろうか。シーザの顔を見上げながら思わずそんなことを考えてしまう。
(違う。演技なんかじゃない)
 アリアはかぶりを振って、後者の可能性を完全に否定した。彼のこれは演技などではない。彼の優しさだ。理屈ではなく、自分の直感がそう言っている。それに、自分がそう信じなくてどうするのだ。
血塗れた剣  カンダタ戦終結。今まで活躍の場を与えられなかった分、グラフトが大暴れしています(笑)。基本的に戦闘はリアリティを追及して書いている(いや本当に)のですが、いきなり無茶をしてますね。この世界では不可能では無い、ってことで許してやってください。
 三編通して、書きたいことを好きなだけ書けたので楽しかったです。朦朧とした意識で執筆していたので破綻がありそうで怖いですが(苦笑)。どうだったんでしょう?(謎)

 グラフトが駆け出すのを見て盗賊達は我に返ると、一斉に襲い掛かってきた。
(予想通り、だな)
 いくら戦闘訓練を積もうが所詮は賊の集まりだ。上の命令を忠実に遂行する王宮兵士とは違う。こうしてこちらが一人になっても持久戦を続けられるような我慢強さなど、彼らは持ち合わせていなかった。

 そして、相手が接近戦を挑んでくるならばいくらでも対応できる。
心、とける  カンダタ編のまとめ。第一章からこれにて、一応の一区切りとなります。
 今回はグラフト視点オンリー。シーザ、グラフト双方に心境変化があり、パーティ内の人間関係も徐々に変わっていくようです。ストーリー上はまったくと言っていいほど進展してませんけどね(死)。数えてみたらはじめからここまででだいたい400枚前後。あらためて自分の遅筆を実感します。速く書けるようになりたいなぁ。

 シーザは普段の服装とはかけ離れた、まさしく王族の格好をしていた。極上の生地で仕立てられたであろう、緻密な紋様が描かれた貴族服に全身を包み、分厚いマントを重たげもなく(まと)う。随所に宝石をあしらった宝剣を腰に帯び、頭上には巨大な金の冠。背筋を伸ばして泰然と歩むその姿は、覇王の気風すら漂わせていた。


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