第六章 砂の果ての再会

―再会〜遺跡の中の二人〜―

 ビットは額に浮き出る汗をぬぐい、見上げた。
 太陽を突き刺すようにそびえる大三角。巨大な四角錐。イシス王家の宝が眠る、盗賊界における三大秘境のひとつ。
「ピラミッドへ、オレは来た!」
 降り注ぐ灼熱に負けじと声を張る。ただただ暑いだけだったこの砂漠も、今はその熱気が自分達を鼓舞してくれているようだった。
「オレは来た! ピラミッドへ!」
「うるさい。黙れ。馬鹿」
 熱い叫びを氷の剣で切り捨てて、横目でにらみつけてくる少女。
 色の薄い赤毛が陽に当たって桃色に見えるポニーテイルが、今はサイズの合っていないローブにすっぽり包まれている。自分より頭二つ分低い小柄。暑さに弱い彼女は、この砂漠に入ってからというもの不機嫌通しだった。まだ幼さの残る面立ちが、今は満面の不満に満たされている。
 射殺さんばかりの視線に、ビットは燃え盛る情熱で答える。
「これが黙っていられるかっ! ピラミッドだぜ! 盗賊たちのオアシスだぜ!」
「暑い。黙れ。馬鹿」
「ぐっ」
 なんて口の悪い奴だろう。うんざりしつつも、しかし相手は五つも年下の少女だ。ここは自分が大人になってやらないと。ビットは居住まいを正し、
「まあリプレ君、落ち着きたまえよ。砂漠とは昔から暑いものだ。何せ砂だからね」
「馬鹿。黙れ。馬鹿」
「ばかバカ言うなぁ―――!!」
 もう我慢の限界だった。ついさっきまでの大人の思いは砂漠に落とした水滴のように消え去り、相方の少女に詰め寄る。
「ピラミッド行きはお前だって賛成だったろっ! 『イシス王家の秘宝……最高の研究素材よね』とか言ってたじゃねーか。こんくらいの暑さでギャーギャー言うな!」
「暑いものは暑いんだからしょーがないでしょ! っもう、ヤダ。いいからとっとと入りましょ」
「待てって」
 さっさと中に入ろうとする少女のローブをぐいと引っ張る。「ぐえ」と女の子らしからぬうめき。次の瞬間鬼神のごとき殺気を放ちながら、しかし少女に浮かぶ満面の笑みに、早口で説明する。
「ちょ、こ、こういうのは始めが肝心なんだって! いいか、前にも説明したけどここには大昔から盗掘撃退の罠がそこらに仕掛けてあるんだ。ウン百年前からの罠だぜ? 多分魔法かなんかで自動起動するタイプなんだろーけど、とにかくピラミッドは危険な罠が多いんだ。落とし穴はもちろん毒槍や吊天井、しかも魔物がうようよしてる。危険度Aクラス。一流の盗賊がついてなきゃ60秒でおだぶつさ」
「それじゃああたし達、ここでオシマイね」
「おいおい話を聞いてなかったのか? 一流の盗賊がいれば、まあ大丈夫さっ」
「ほんとにね。せめて二流以下の盗賊がいてくれれば、まだ生き残る望みもあったろうにね」
 リプレはじっとこちらを見ると――あらためて見つめられると照れるな――これみよがしにため息をついて見せた。
「これ、じゃあねぇ」
「ちょっと待った。まさか、もしかしてと思うけど、オレの実力を疑ってんのか?」
「どこまであったま鈍いのよ! サル? サルなの? 今までアンタが一度でもあたしの期待に応えたことがあった?」
「んだとぉ? よーし分かった。そんなに言うならオレも男だ。ここで一度でもトラップに引っかかったら、その時は一生サル語で喋ってやるよ!」
 肩をすくめる少女を引っ張って、二人はようやく遺跡への一歩を踏み出し、
「レッツ、ピラミッ――」
 すかっ、と第一歩は、あるはずの床をすり抜け、当然バランスを崩し、
「どおおおおぉぉぉぉぉ……」
 二人は底見えぬ奈落へと落ちていくのだった。


     ×××××


 イシスを発って北に数日。勇者一行はピラミッドに到達した。
 王権の象徴とも言うべき巨大な建造物は、砂色の肌で熱線を照り返し、広がる大砂漠を支配者の目で見下ろす。何千年という永い時、ここにあり続けた王家の墓。
(こんな馬鹿でかい墓作って、どんだけの人間を道連れにしたのかね)
 壮大なそれを見て、そんな感想しか浮かばないのが自分らしいとイクスは思う。
 魔王に繋がる――かもしれない――オーブを求めて。死にたくなるほどの暑さも手伝って、どうにもモチベーションが上がらない。
 いや、やる気が出ないのはそんな理由じゃない。いつからか胸の内でくすぶり、黒い煙を上げているこの感情のせいだ。
(俺、このままここにいていいのかね)
 魔王討伐の旅。世界を救う戦い。
 シーザは、押し付けられた勇者という役割を真っ向から受け止め、一切の迷い無く目標に突き進んでいる。
 グラフトは、師であるオルテガの陰を追いながらも、今は勇者を認め、肩を並べて戦っている。
 アリアは、辛い過去を気丈に背負って、足りない力を想いで補おうと、一心に歩んでいる。
(じゃあ、俺は?)
 シーザは面接の時言った。仲間を選んだ基準は、『相応しい目的を持っているか』と『バラモスと戦った後生き残ることが出来るか』であると。
 イクスはその時自分だけ、動機を明かしていない。虚実で勇者の器を計ったのを、少年は見破り、彼を認めた。頭が切れるなら、見当違いな動機で志願するはずがない、と。
(俺の動機――ね)
 バラモス討伐。国を飛び出してから、魔物の、魔王による悲劇を数知れずその目にした。自分にだって矜持はある。世界を救う一助となるなら、可能な限り手助けしたいと思う。
 しかし、それは二の次、三の次。何かのために身を投げ出せるほどの正義感は持ち合わせていないし、ロマンチストでもない。自分の目的はもっと、卑小で、取るに足らない、実にちっぽけな、人間らしいものだ。
 だから迷う。自分は本当に、このまま旅を続けるべきなのか、と。
「イクス、どうした」
 はっとして、話しかけてきたグラフトに、あわてて取り繕う。
「ん、別に、な。それより今はピラミッドだろ。ついに美しき元盗賊、イクス様のスキルを魅せる時が来たってわけだな!」
 軽い笑顔を貼り付けて、胸中の迷いは毛ほども見せず、イクスはピラミッド入り口へ勢い込んで突っ走った。
「よし皆、俺につづぐえ」
 突如首がしまって、美男に不似合いなうめき声がもれる。ぎろりと振り向いた先には、無感動にイクスのローブを引っつかんだシーザ。
 抗議の声を待たずに、少年の指が入り口床を差す。
「見てみろ」
 そう言って放った小石が、入り口の床を音も立てずにすり抜けた。唖然とするイクスに、馬鹿にするでも諌めるでもない、淡々とした声。
「周囲の床と幻として投影させた、幻影魔法マヌーサを応用したトラップだ。僅かだが、意識を集中すれば魔力が検知できる。大昔から永続的に動作しているということは、ピラミッド自体が魔力を吸収し続ける巨大な魔法装置であるというアープの論文はあながち間違いではないか」
 勇者の指示で、アリアがバギの呪文を唱える。風が幻影をかき乱し、虚像をたやすく見破った。進む一行を、イクスは無言で追う。
(この上、役立たずになったら、俺は――)


     ×××××


 激しい騒音を立てて落下したのは、狭く、薄暗い部屋。
「……ウキーと鳴きなさい」
「……、うきぃ」
 ぐうの音も出ないビットは、自分たちの落ちてきた穴を見上げた。わずかに光がこぼれるそこは、建物2階分くらいの高さか。自分だけならまだしも、とても少女を連れては登れる高さではない。
「まさか入り口にトラップがあったなんてな……猿も木からすべるとはこのことだぜ」
 さすがは盗賊界の秘境だ、ビットは気を改めて引き締めなおす。
「信じてたのに……」
「へ?」
 か細い声に振り向いた先、桃色のポニーテールを砂まみれにした少女が目元をうるわせるのに、ビットは仰天した。
「え、え、ちょ」
「信じてたのに! あなたなら、このピラミッドも突破できるって、一流の盗賊のあなたなら!」
「え、や、いや」
 普段のがさつな様子からは想像もできない、憂いに満ちた恫喝がビットの胸にぐさりと刺さる。ただただ狼狽するしかない。
「ごごごめん、ちいっと油断しちまったよ。次からは気をつけるって! だいじょーぶ! 俺は大盗賊シルバー・ゲイルの二番弟子だぜ。大船に酔った気でいろってば!」
「人語を喋るな、猿」
「……、うきぃ」
 もはや一言も発せない。完全にもてあそばれていた。
 リプレはふうと息をつくと、
「もー、いつものことだし、いいわ。許してあげる」
 なんとも満足げな、晴れやかな顔で笑うのだった。
「……どS」
「なにか?」
「なんでも」
「軽口叩いてると、それと同じ末路になるわよ」
 そう言って指差す先はこちらの足元。ぱき、と音がして、ビットはようやく自分たちの状況を悟った。
「う、わあああああ!!」
 思わずその場を飛びすさる。床に一面広がるのはがいこつ。見まごう事なき人間の骨だ。しかも今、思いっきり踏んだ。ぞくぞくと怖気が走り、冷や汗が吹き出る。
「多分、二流以下の盗賊達の成れの果てじゃないかしら」
「おま、おお前は、何でそんなに冷静なんだよっ」
「あんたが動揺しすぎなの。ハイリスクを承知で挑んだんでしょ」
 しれっとした顔の少女。ビットとしては、だからと言って人骨を前に平然とするのは女の子としてどうかと思うのだが、殴られそうなので言わない。
「ともかく、出口なり宝なり探しましょ。仲間入りしたくないしね」
 さっさと歩き出す少女の後ろ髪を、ビットは慌てて追った。


     ×××××


 イクスは改めて思う。シーザはすごい、と。
 ピラミッドの道々に仕掛けられたトラップ。襲い来る魔物。一行はそれらを次々に突破していった。
 普通、知識だけでは実際に仕掛けられている、生きた罠は見つけられない。一時期とはいえ盗賊修行を積んだからこそ、イクスはそれを身をもって知っている。ましてや盗賊達の間で最難関の一つと呼ばれる場所。それをシーザは知識と並外れた観察力・想像力で、難攻不落のピラミッドを攻略していくのだ。
 その姿を見て、ふと思う。この少年の力は、自分一人でも旅を続けられるように磨き上げられたものではないかと。
 一人で剣も魔法も扱い、旅の知識も行動指針も全て合わせ持つ。眠っていても歩いていても常に周囲へ警戒を飛ばし、戦いとなれば最も危険な場所へ躍り出る。まるで、始めから仲間を連れないことを前提に鍛え上げたような力だ。
 全てができるから全てを背負う。思えば、父親である故勇者オルテガも、たった一人で魔王へ立ち向かったと聞く。勇者の血統というものは伊達ではないのかもしれない。
 思索にふける間にも、一行はどんどん奥深くに進んでいく。概算では、もう最深部に近いだろう。オーブの納まる王殿は魔法で完全に施錠されているため、イシス女王よりそれを解くための『魔法の鍵』を受け取っているのだが、
「これは……」
 たどり着いたピラミッド最奥、魔法で封じられたはずの堅牢な扉は、まるで入ってくださいと言わんばかりに大口を開けていた。
 オーブが納まっていただろう台座は空っぽ。そしてそこには、

〜ありがたく頂戴いたします  エリッサ・スパニエル〜

 そんな言葉がつづられた一枚の紙が貼り付けられていた。
 エリッサ――覚えている。ルイーダの酒場にいた志願者の一人、銀髪に褐色の肌が妖艶な魅力を放つ美女だ。あの場で別れた女盗賊が、まさかこんなところで、こんな形で関わることになるとは。
「先を越されたか」
 苦労が水の泡になったというのに、少年はひたすら無感動だった。何の未練も無いという風に、さっさと背を向ける。
「もう用は無い。イシスに戻るぞ」
「――それじゃあ、つまらないな」
 突然響いたその声に、シーザが剣を抜き放つ。
 それを合図に、全員が密集して警戒体勢をとった。イクスは視線を巡らせる。今の声は、エルフの森で聞いたものと同じ。得体の知れない謎の人物。傍観者を名乗る者。
「せっかくこんな所まで来たのに、宝物も無しでは、なんとも退屈じゃないか」
 声はすれども姿は見えず。頭に直接響くような言葉へ、シーザが声を張り上げた。
「シャンプ、と言ったな。どういうつもりだ」
「覚えて頂き光栄だ。なに、たいしたことじゃない」
 ぱちん、指を弾く音と共に、自分たちの周囲一帯から、イクスでもはっきりと解るほどの、強烈な邪気があふれ出した。
「百戦錬磨の勇者ご一行を迎えるには、これくらいのイベントは用意しておかなければ、とね」
 ぱらぱらと砂が落ちる音がしたかと思うと、全方位の石壁がぼろぼろと崩れる。そこには、
「!!」
「ひゃっ」
「こいつは……」
 全身に包帯を巻きつけた、ミイラ男が姿を現した。数は――ぱっと見でも30以上。完全に取り囲まれている。
「貴様は傍観者を自称していたのではなかったか」
 戦慄する仲間達をよそに、シーザだけはシャンプへ意識を集中していた。
「確かに、私は傍観者だ。しかし演目がつまらなければ野次も投げたくなるのだよ。わかるだろう?」
「ふざけたことを……」
 矛盾した言葉が並べられるのに、シーザが吐き捨てた。その反応がイクスには意外だ。普段の少年ならば、黙って攻撃魔法でも放ちそうなものだが。
「さあ! 私を楽しませてくれたまえ。コリドラスと勇敢な仲間達よ!」
 その言葉を合図に、ミイラ男達が一斉に襲い掛かってきた。
 もちろん、その間呆けていたわけではない。
『ベギラマ!!』
 前方と後方。示し合わせたように、背中合わせにイクスとシーザは同時に魔法を放った。なぎ払うように振った腕に従って、熱線が横一文字に放たれる。周囲360度の魔物を焼き払い、できた間隙を4人が駆け抜ける。
「退避・B!」
 グラフトを先頭にアリア、イクス、シーザの順で走る。先行するグラフトをアリアが補助し、イクスが前後の討ちもらしをケア、シーザがしんがりを務める。
 既に退路の最短ルートは頭に入っている。壁から次々に現れるミイラをグラフトが斬り、アリアが退け、イクスが焼き、シーザがさばく。
 しかし、きりが無い。1体倒すごとに2体のミイラが現れるという状態で、おまけにトラップを回避しながらの退避、思うように進めないうちに、3人歩くのがやっとという狭い通路がどんどん魔物で埋め尽くされていく。
「シーザ! このままではっ」
 先頭で5体を同時に相手するグラフトが苦悶を漏らす。勇者は後方から迫る群れを牽制しつつ、
「わかっている! アリア、後方に光。同時、前方に二閃! 即時退避しろ!」
 端的な言葉で作戦が飛ぶ。魔力も体力も残り少ない。一気に勝負を仕掛ける!
「ニフラム!」
 アリアの指先から伸びた白光が後方から追いすがるミイラ達を牽制し、イクスとシーザで再度、退路へベギラマの二閃。
 ごうとうなりを上げて閃光が貫いた。焼けただれ炭化した魔物の死体(もともと死体だが)を踏み越えて、包囲を抜ける。
 出口までもうすぐ――と気を抜いた瞬間だった。
 横手の石壁が崩れ、野太い腕がイクスのローブを引っ掛けた。
「ッ……!!」
 とっさに振った理力の杖が空を切る。壁から現れたミイラ男の豪腕に引き倒され、したたかに背を打ち付けた。脳髄がしびれ歪む視界に、魔物の足が振り上げられる。
(やべ、死んだ)
 極限状態になるとかえって人間は冷静になるのかと、包帯を巻いた足が顔面に迫るのを、まるで人事のように眺めていた。
 悲鳴を耳に死を受け入れた瞬間、顔上の足が吹き飛ぶように消え去った。同時に乱暴に引き起こされる。
「起きろ!!」
 かつてないほどの大声に、一瞬誰の言葉か分からない。目の前の少年が魔物に取り囲まれるのを見て、ようやくイクスは意識を覚醒させた。
「あ、ああああああ!!」
 渾身の力で振った杖が、理力をまとい魔物をなぎ倒す。死にかけた恐怖が今になって湧き上がってきて、震え出しそうな腕をやみくもに振り回した。シーザが何か叫ぶのも、まるで聞こえない。
 その時、熱を上げた頭に水を差すような、ガタン、という音。まずい――そう思った時には、自ら起動させた落とし穴に、まっさかさまに転落していった。


     ×××××


 うすぼんやりとした地下通路を、ビットとリプレは慎重に進んでいた。
 ピラミッド地下は存外広いが、意外にも魔物やトラップには全く出会わない。少し拍子抜けしつつ、警戒はしながらマッピングを続けていく。
「案外順調だよな」
 軽い気持ちでそう投げかけた先には、渋面を浮かべる少女。
「本気でそう思ってるなら髪の毛引っこ抜いてパスタにしてあげる」
「うぇ、な、なんで?」
「魔物も罠も無いなら、なんで大量の人骨があるわけ?」
「あ」
 確かにそうだ。なかなか鋭い奴だぜ。
「なかなか鋭い奴だな」
 なぜか殴られた。褒めたのに。
「もう嫌ッ! こんな馬鹿のお守りしながら死ぬなんてありえないッ!」
「おいおい悲観するなよ。俺だって馬鹿じゃないんだぜ」
 さめざめと泣くリプレに、さわやかな笑顔を向ける。
「闇雲に歩いてるんじゃない。ちゃーんと宝の気配を追ってんだ。ほら、見ろよ」
 通路を抜け、今までに無い大きなフロアに出た。見上げるほど天井の高い空間。中央に小型ピラミッドのような段々になった台座があり、その頂点には、輝く宝箱!
 亡霊の顔をしていた少女は、花の咲いた笑顔で駆け出す。黄金の宝箱を前に、すぐさま二人でトラップチェック。問題、なしだ。
 ごくっ。どちらともなく息を呑んだ。鍵を解除。恐る恐る、ゆっくりゆっくり、開いていく。
「!」
 目を刺したのは黄金の輝き。安っぽいメッキなどではない、鈍く光を照り返すそれは、円筒に精緻な細工で人間の顔が描かれ、先端には三本の鉤爪が生えている。手甲のように腕にはめて使う武器のようなものだろうか。手にとってしげしげと眺めていると、やおらリプレが横手から奪い取って、
「こ、こ、これはああああっ!!」
 がくがくと震えながら素っ頓狂な声を上げる。
「もしかして、相当すごいお宝だったりするのかっ」
「しら、知らないの!? これ、これ……どう見ても『黄金の爪』じゃないッ!」
 黄金の爪。確かに黄金の爪だ。見たままだな。でもこれが純金なら結構な金になるんじゃ……。
 不理解を浮かべるビットを、信じられないという目でにらみながら、リプレはまくしたてる。
「ピラミッド最奥に眠る秘宝、それが『黄金の爪』よ! このピラミッドはウン千年前に作られた王墓だけど、実は罪人の処刑場でもあったの。見て、この象眼されてる顔はきっと当時の王のものね。本で読んだことある。イシスには昔、罪人の魂を王の御元で鎮めるっていう信仰があったって。ピラミッドの地下、つまりここがまさに、罪人の処刑場ってことよ!」
 興奮した声を半分聞き流しながら、その爪を見やる。ということは、これで首をかっ切ってたってことか? そう考えるとかなり怖い。
「まあともかく、こいつはすごいお宝なんだな。これで俺も大盗賊の仲間入りってことだな!」
「当ったり前よ! 競売に掛けたらいったいいくらになると……!」
 徐々に実感が沸いてきて、知らず声が高くなる。と、さっきまで高揚していたリプレの声が急にトーンダウンした。
「おかしい。こんな簡単に手に入るわけない。それなら絶対、誰かが先取りしてるはず……そもそもこれだけ所在や名前が知られているのに、誰も手に入れてないなんて変じゃないかしら? 何か、何かあるんだわ」
「心配性だなーおい。ポジティブに行こうぜ! あとは地上への道を探すだけ。俺に任せとけよ」
 立てた親指で胸元を指して、頼もしくうなずいて見せた、その時。
「――ダレダ――」
 鈍く、低く、
「――ガ眠リヲ――」
 臓腑の奥からこぼれ出るような、くぐもった声が響く。
 周囲の壁からぱらぱらと砂が落ちる。ぞくっと身震いして、ビットは無意識に腰のダガーに手を掛けた。
『我ガ眠リヲサマタゲルモノハダレダ――』
 土壁がばらばらと崩れる。その先には、包帯を全身に巻きつけた屍体――大量のミイラ男!
 魔物は両手をだらりと前に突き出して、落ち窪んだ眼光を二人に向ける。
 怖気が走る怨嗟の声が響いて、
「逃げろ――!!」
 絶叫を残して、二人は脱兎の如く駆け出した。


     ×××××


 落とし穴の先は、薄暗い通路だった。床に倒れこんだまま、イクスは荒い息を上げる。
「ッ、はあっ、はあ、ンッ……はあ、はあ、はあ……」
 爆発しそうだった心臓の鼓動が、ようやく、少しずつ、収まってきた。
 何とか生き延びた。実感する。一人旅時代から今までにも、生死の境を綱渡りしたことは何度かあったが、今回は極めつけだった。あと一秒遅ければ、自分の頭蓋は粉々になっていただろう。
「悪ぃ、シーザ、助かった」
 大きく息を吐いて、一緒に落とし穴へ落ちた少年を見上げ、
「お前、それ!」
 少年の右腕がありえない方向に曲がっていた。打撲ではなく、怪力で握りつぶされたような痕。
「あの時か。俺をかばったせいで」
「治る。問題無い」
 少年は表情を変えないが、額には玉の汗が浮かんでいた。気が狂うような激痛のはずだが、口調に乱れを出さないのはさすがとしか言えない。空いた左手を右腕にかざし、静かに呪文を唱える。
「ホイミ――」
 淡い白光が広がり傷を癒す――はずが、何も起こらなかった。イクスは慌てて駆け寄る。
「まさか魔力切れか? それとも怪我のせいで」
 魔法を扱うには、呪文に合わせて一定以上の魔力を消費する。短時間に呪文を連発すれば、魔力が回復するまでは魔法は使えない。また怪我の痛みで精神が乱れれば、魔法を失敗することもある。
 しかしシーザは首を振って、確かめるように手のひらを見下ろした。
「魔力が集中できない。イクス、どうだ」
 言われて、精神を整える。最も初歩の魔法。杖先に魔力を集め、呪文。
「メラ……えっ」
 集めたはずの魔力が呪文を唱える前に、風に吹かれた煙のように霧散した。もう一度試みるが、同じだ。
 シーザが淡々と分析する。
「ピラミッド地下に、マホトーンと同様の効果をほどこした結界が張られているようだな」
 魔法を扱うために必要な三つのプロセス。精神集中、魔力集中、呪文。このいずれか1つでも封じられれば、魔法は発動しない。魔力集中を阻害する呪文――マホトーンと同様の仕掛けが、仮に地下全体に張り巡らされているとすれば……、
「脱出しないと魔法は使えない。クソッ」
 思わず毒づいた。これでは怪我が治せないどころか、無事にピラミッドから出られる保障も無い。
 そこまで考えて、今頃になって気づく。地下にいるのはイクスとシーザの二人だけだ。
「二人は? グラフトとアリアちゃんは」
「落ちたのは俺達だけだ。包囲は抜けられたから、何とか脱出できただろう」
 逃げてる間は冷静に考えられなかったが、確かにもう出口に近かった。グラフトも付いているから心配ない、とひとまず安堵する。
 出口を探すぞ、そう言ってシーザは歩き出す。
「ちょ、大丈夫なのかよ!」
「大丈夫も何もない。出るしかないだろう」
 呼び止めるのに、平然とした顔で返された。そうだ、心配してても何も解決しない。こいつはそういう奴だ。頭ではそう考えるが、イクスは冷静でいられなかった。
「悪い。俺のせいで、そんな」
「関係無い。行くぞ」
 さっさと歩き出すシーザの横に並んで、
(最悪だ――)
 イクスは思いっきり凹んでいた。
 シーザの足を引っ張ったこともそうだが、何よりかばわれてしまったことがショックだった。
 これではシャンパーニの塔でのアリアと同じだ。同じなのだろう、落とし穴の存在にシーザは気づいていたはずだ。助けるために、わざと一緒に落ちた。腕を負傷した状態で。
(結局俺は、一人じゃ何もできないのか?)
 知らず、国を出た時のことを思い出した。優れた兄と、その陰にうもれ誰からも期待されない自分。それを変えたくて――。
 変わったと思った。一人旅に出て、魔王討伐に志願して。しかし現実は打ちのめされてばかりだ。兄とシーザ。目標に向かって揺るぎなく向かい続ける意志。結局自分にはそれが無いのだ。だからどこに行っても中途半端のままなのだ。
「前に聞いたけどよぉ」
 ぽつりともらすのをシーザが目線で応えた。利き腕ではない左で剣をぶら下げながら、無言で続きをうながしてくる。
「今さら改めて聞くのもなんだけどな。あー、面接の時だけど、なんで俺を選んだんだ?」
 本当に今さらだ。しかしなぜか、聞かずにはおれない衝動に駆られる。
「あの時言ったはずだ。バラモス討伐の意志と、生き残るための素養。それらを踏まえて選考したと」
「ぶっちゃけるとな、俺には、お前らみたいな強い意志なんてねえんだよ」
 口をついて出た言葉は、紛れも無い本心だ。
 少年の表情は変わらない。読み取れない。
「お前もぶっちゃけろよ。本当のところはどうなんだ」
 シーザが足を止めたので、こちらも立ち止まる。重傷にも揺るがない瞳を真剣に見つめた。
「パーティのバランスを考えた、という理由もある。誰か一人、攻撃魔法の使い手は必要だった」
「魔法使いはもう一人いた。俺を選んだ理由はなんだ」
 追求する。自分はどんな言葉を求めているのだろう。
 杖を握る手に汗がにじむ。少年が口を開くのをじっと待つ。
 彼は少し黙考した後、こう答えた。
「冷静に、客観的に勇者おれを批判できる存在。勇者という存在に囚われず、反証を述べられる人間が必要だった。俺一人の考えなどたかが知れている。パーティ内の意志は統一される必要があるが、それはリーダーに依存したものにしたくない。頭が誤ればそれを正せる体制こそ健全な組織だ。お前を選んだのはそのためだ」
 批判、勇者に反発できる存在。独裁はしたくない、ということか。
 確かにグラフトもアリアも、異論を挟んでも最後にはトップに従う人間だ。納得いかなければずけずけ物を言う、意志を曲げるくらいなら離れてもいいとすら考えているほど我が強い自分ならば、確かにお眼鏡に適っているのかもしれない。
 しかし、つまりそれは、
「わがままな文句言いだから選んだってことか?」
「そうとも言えるか」
 がく、っと思わず肩を落とした。落胆しているのを自覚して、また恥ずかしくなる。どんな理由を期待していたのか。他人の言葉で自信を得ようなど愚の骨頂だ。考えたら情けなくなってきて、ますます凹む。
「イクス、俺はお前に――」
 シーザが何か言いかけた時、
「うわああああぁぁぁぁぁ!!」
 地下道に切羽詰った悲鳴が響き渡った。


     ×××××


 十。二十。三十。背後から迫るミイラ男は進むごとに数を増していた。
「クソッ」
 振り向きざまに投げたナイフが魔物の眉間に深々と突き刺さる。が、
「なんで効かねーんだよ!」
 一瞬動きを止めるも再び歩き出す姿を見て、ビットは悲鳴を上げた。
 ミイラ男は両手を突き出して、緩慢な動きでじわじわと迫ってくる。速度は決して速くないが、障害物も無いし、そもそも逃げ場が無い。焦りが身を焦がす。
「どーする、どーするよ!?」
「だー、うっさい! 『跳べ』!」
 隣でリプレが魔道士の杖を振るう。杖先から火の玉が飛び出して魔物を焼くが、これも足止め程度の効果しかなかった。
「とにかく逃げるしかないでしょっ! 出口を――」
 突然横手の壁が崩れて、ぬっと野太い腕が突き出た。悲鳴。包帯にまみれた魔物の腕がリプレの腕をつかんだ。とっさに腰のロングナイフを抜き、
「うわああああぁぁぁぁぁ!!」
 雄たけびと共に渾身の力で振り下ろす。かろうじて両断、リプレを引き剥がす。少女が杖を振るってミイラ男がのけぞるが、倒れない!
 やぶれかぶれでもう一度ナイフを振りかぶった瞬間、
傀儡くぐつを倒す方法は二つだ」
 横手から銀閃が飛び込んだ。鋼の剣がミイラ男のわき腹に食い込むや、魔物は糸が切れたように動きを止め、倒れ伏す。
「使役者を倒すか、核を破壊するか。使役者が分からなければ、核を狙うしかない」
 剣を引き抜いて前に立ったのは――ビットは記憶を辿る――確か、何ヶ月か前にノアニール西の洞窟で出会った少年だ。旅装束に砂色のローブをまとい、黒髪の上にサークレット。何よりこの偉そうな口ぶり、間違いない。
 しかしそれがなぜここに? 呆然として思考が付いていかず、ビットは「核?」とオウム返しに呟く。
「もっとも邪気の強い場所が傀儡の中核だ」
 そう言いながら目の前に迫った魔物の左肩を突き刺す。またも一撃。なるほど、要は弱点があるってことか。
「こっちだ、走れ!」
 魔物の大群とは反対側、少年の仲間らしい金髪の魔法使いが手招きしていた。リプレがローブをぐいと引っ張る。慌てて駆け出した。
 背後だけでなく、横手や前方からもミイラ男が現れた。ナイフを振るって応戦するが、倒せない。邪気の強い場所といっても、戦闘中にそんなの判別できるのか? しかし少年や魔法使いの男は一体一体着実に数を減らしていた。ギリ、奥歯を噛み締める。
「ビット! これ使って」
 リプレが差し出したそれは眼鏡だった。陰照インテリ眼鏡。リプレ開発の魔道具だ。これなら!
「『示せ』!」
 眼鏡を掛けて言葉を叫ぶや、魔物らの周囲にどす黒い霧のようなものが浮かび上がる。聖性・邪気を視覚化するインパスの呪文がこめられたアイテムだ。
 両手で投げ放ったナイフが、二体の魔物の最も霧の濃い部分を貫いた。一瞬動きが止まり、やがて力を失い、倒れた。思わず拳を上げる。
「調子に乗ってないで逃げなさい!」
 叱咤が飛んで、再び駆け出す。金髪の魔法使いを先頭に、リプレ、ビット、黒髪の少年。戦力は四人に増えたが、その何倍ものミイラ男が次から次へと現れる。いい加減息が上がってきた。
 またも横手の壁からミイラ男が襲い掛かる。至近のリプレがロングナイフを振るうが、パワーが足りない。とっさに最後のナイフを投げた。急所を突かれ倒れる魔物を見て、ビットは違和感を覚える。
(なんだ、魔物の動き……リプレを狙ってる?)
 理由は分からないが、直感的にそう感じた。だがなぜ――
「……ちぃッ」
 うめくような舌打ちに見やった前方は、魔物の大群で埋め尽くされていた。完全にはさまれた。
 冷や汗が頬を伝う。どうする、どうすればいい。
 ごくり、喉をならした。この状況を切り抜けるには、これしかないじゃないか。
「俺がッ」
 密集して前後を威嚇する三人が一瞬視線を向けた。ビットは決意と共に告げる。
「俺が道を切り開く! 全員俺に続け!」
「馬鹿! 死ぬわよ」
 厳しい視線で魔物をにらみながら、リプレが罵倒を飛ばす。ビットは震えそうなひざを押さえつけ、笑った。
「……ははっ、そうかもな。師匠が、ゲイルさんが言ってたんだ。人を守って、まして女を守って死ぬなら最上だ、ってな」
「ビット……」
 リプレは感動にあふれる涙をぬぐって、
「わかったわ。あなたの死は無駄にしない。これは一人の盗賊が命を掛けて手に入れたって、末代まで語り継いであげるね」
 黄金の爪を抱きしめて、少女が笑った。あれ、切り替え早くね? 涙も流れてなくね?
「茶番はいい」
 冷め切った顔で黒髪の少年がぬっと腕を伸ばした。「あっ」とリプレが言っいる間に、少年は奪い取った黄金の爪を、当然のように魔物の群れに放り投げる。
「あああああああああああああああああ!!!」
 少女の絶叫。放物線を描いて群れの中心に落ちていくお宝を、ビットは呆然と見送った。

――ォォォ

 魔物の動きが、止まった。
 緩慢な動きでにじり寄ってきたミイラ男は、潮が引くように少しずつ後退していく。予想外の展開に思考が停止するこちらをよそに、少年が淡々と語った。
「やはり、あれが傀儡の使役者だったか。古代イシスで黄金の爪は邪を呼ぶ金属で作られたと聞くが、あれ自体が死者をおびき寄せていたようだな」
「ようだなじゃない! なんてことすんのよあんたは――!!」
 激昂したリプレが少年につかみかかる。
「黄金の、あのお宝がどれだけの価値か分かってんのッ!? それを、それをッ」
「人命優先だ」
「べ・ん・しょ・う・しろおおお!!」
 滂沱の涙を流してがくがく揺さぶる。あれ、オレの時とリアクション違わね?
「ッ……」
 少年が低くうめいて、糸が切れたようにくずおれた。
「シーザ!」
 金髪の魔法使いが駆け寄る。少年の顔は蒼白で、額に脂汗が浮かんでいた。
「ご、ゴメン。大丈夫?」
 思わぬ事態にリプレもうろたえた。よくよく見ると、さっきの戦闘でか、それより前か、少年の右腕が潰されたように曲がっていた。
(これだけの怪我をして、あんな動きを……!)
 背筋が寒くなる。さっきの戦闘、少年の動きにはまったく乱れが無かった。最小の動きで的確に急所を突く。万全の状態ですら、自分にできるような技じゃない。
 ふと、少年――シーザと目が合った。青ざめながらも鋭い眼光に射すくめられる。魔法使いに助け起こされながら、呟く。
「守って死ぬのが最上だと、笑わせるな。生き残る覚悟の無い奴が命など掛けるな」
「なっ」
 思わぬ言葉に絶句する。少年はそれだけ告げると、何事も無かったようにさっさと歩き出した。金髪の青年が振り返って「失礼するよ、ご両人」軽く手を振るのをただ呆然と見ていた。
「なんなんだよ……」
 完全に姿が見えなくなったところで、ビットは呟いた。
 好き勝手言いやがって、という少年への単純な怒りと、それ以上に、師の言葉を馬鹿にされて言い返せなかった自分が腹立たしかった。
「なーんか、妙な縁があるのね、勇者君とは」
 ため息と共に少女がぼやくのを聞き流しながら、ビットは心に誓う。
 次に会った時は、尊敬で頭が上がらないような目に合わせてやるぜ、と。


     ×××××


「なーんか、緊張感のない二人だったなぁ」
 こちらの呟きに、シーザは無言を返す。
 イクスは意外だった。シーザが銀髪の少年に言った言葉。いつもの無表情ながら、微かに苛立ったように感じたのだ。
(誰かを守って死ぬ、か。親父さんのこととか考えたのかね)
 シーザは父を、勇者オルテガを戦いによって亡くしている。父のことを想って感情をあらわにしたというなら、多分に人間らしいじゃないか。
「イクス、さっきの続きだ」
「うん?」
 こちらの思索を遮るように、シーザが語りかけてきた。続き――そう言えば何か言いかけていたような。
 少年は挨拶でもするように、さらりと言ってきた。

「お前にパーティのサブリーダーをやってもらいたい」

 何を言われたのか一瞬分からなかった。
 呆然とするこちらをよそに、淡々と言葉が続く。
「俺がいない時、俺に何かあった時はお前がパーティをまとめてくれ」
「ちょ、何縁起でもねーこと言ってんだよ! それに、ンなこと俺に」
「お前には人を引き付ける才がある。天性のものか、境遇上のものか知らないがな」
 ギクっと思わず身をすくませた。こいつ、感づいてやがるのか。出自が割れるような真似はしていないはずだったが……。
 反論を口にしようとした矢先、
「シズ様!」
 暗い通路に華やいだ声が響いた。
 通路の奥からたったったっと駆ける音。空色の髪を揺らして現れた少女は、紅玉色の瞳に涙を浮かべて少年へ走り寄る。
「腕の怪我を! ああ、ここでは魔法が使えないんでした。すぐに外へ出ましょう!」
「ッ……引っ張るな」
「無事のようだな」
 一緒にグラフトもやってくる。その姿を認めて、張り詰めていた緊張の糸がようやく切れた。二人がここにいるということは、先に脱出をして、外側から地下に続く道を見つけたのだろう。生きた心地がしなかったが、何とか命を繋いだわけだ。
 そして、人心地ついたところで、自身の問題は何も解決していないことを思い知る。
 そもそも旅を続けるかどうか思い悩んでいたのに、気づけばパーティのサブリーダーをやってくれときたもんだ。
(本当、どうすりゃいいんだ、俺)
 出口から差し込んだ太陽の光がやたらと眩しい。このままピラミッドに埋もれていたい気分だった。




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