web拍手のお礼コメントにて掲載していた、双竜伝承のパロディ小説です。
かなり楽しんで書いてます。楽しんでいただければ幸いです。




「なんだったんだ、あいつら?」
「さっきの会話聞いてなかったの? あれが噂の、アリアハンからの魔王討伐隊でしょ」
「えっ、あの無愛想なのがオルテガの息子!?」
「みたいね」
「イメージしてたのとは全然違うなぁ」
「英雄の子供だとか勇者だとかなんて、人を見るのに何の参考にもならないわよ」
「そりゃそうだけど……。あっ、じゃあさっきの女の人も魔王討伐隊なのか!?」
「じゃないの? 娼婦か何かかもしれないけど」
「あんな可憐な人がそんなことしてるわけ無いだろ!」
「人間、腹の中じゃ何を考えてるかなんて解らないわよ。外見に惑わされないことね」
「すごいこと言うな、お前」
「わりとよくある話っぽいわよ。男三人に女一人だしねー。戦いで溜まったものを処理するための、っていう」
「でもさ、勇者一行だぜ、あいつら」
「英雄の子供だとか勇者だとかなんて、人を見るのに何の参考にもならないわよ」
「そりゃそうだけど……。あっ、ところで実はオレ子供の頃から魔王を倒すのが夢でさ」
「死になさい」


※第五章4 『邂逅〜洞窟の中の二人〜』



「さて、今日の授業は生と死についてだ」

「クローディオル教諭」

「何だね、シーザ君」

「最初の授業から今まで、生と死以外の授業を受けたことが無いのですが」

「生と死は人生にとって最も重要かつ重大なテーマだ。どれだけ学んでも学びすぎることは無い。生と死について学ばない人間などゴミムシ以下の存在であると言って良いだろう」

(誰だ、こいつを教師にした奴は……)

「さて、今日の授業は生と死についてだ。まずは皆にこのビデオを観てもらう」

「……何のビデオですか?」

「諸君の身の回りにある生と死に関するビデオだ。君達が毎日食べている肉、しかしそれとて一つの命、一つの死から生まれたものだ」

「はあ」

「このビデオは、一匹の豚が生まれ、牧場主の愛を受けながらすくすくと成長し、たっぷり太ったところで市場に売りに出され、屠殺され、食肉作業場に送られ、加工され、スーパーに並ぶまでを追った一時間半に渡るドキュメンタリーだ。特に食肉作業パートは約三十分、豚の肉を切り分け、内臓を引き摺り出し、切り潰した肉片を腸に詰めてソーセージに加工するまでをじっくり綿密に……うん? どうしたね、シーザ君」

「帰ります」


※私立コリドラス学園その3



「アリア……お前はなぜ、シーザのことがそれだけ理解できるんだ」
 そうだ。シーザとアリアは出会ってまだ一ヶ月半。一人の人間のことを、そんな短期間にそこまで理解するなど、心を読む力でもない限りできるわけがない。
 そんなグラフトの疑問に、少女は真っ直ぐな目をこちらへ向けた。その眼差しに思いを重ねるように、アリアは言葉を紡ぎ出す。
「実は私、人の心が読めるんです♪」
「そうか……」
 やっぱり。



「だからグラフトさんが子供の頃イジメラレっ子だったことも知ってますし、猫が何より大好きなことも知ってますし、十八の頃」
「解った! 解ったから!!!」


※第四章4『とける心』



「……予定通りだ。作戦を始めるぞ! 準備にかかれ!」
 指示に答えて子分らは慌しく動き出した。

 作戦の全容はこうだ。

 まずは、この畑に敵の戦力を誘い込み、こえだめに嵌める。深さは地上からビル四階分。吐き気くらいするかもしれないが、ある程度鍛えた奴ならばどうということもない深さだろう。しかしこれはフェイクでしかない。
 落とした先は円形のあなぐらになっていて、四方を巨大なカボチャにかこまれた密閉空間だ。そこに四方向からの同時襲撃をかける。包囲を敷きながら、ジャガイモと長ネギの波状攻撃で相手を中央に追い詰める。
 そこで仕上げだ。全方位を囲まれ周囲に注意を引き付けられた侵入者へ向けて、カンダタ自らがこえだめに飛び込みざま、頭上から奇襲の一撃を見舞う。全体重を乗せた大根の破壊力は、以前やってきたロマリア農業組合の長を麦わら帽子ごと縦に両断したほどだった。組合長を失い動揺する相手を、カンダタが内部から皆殺しにする。
 既に作戦の第一段階は完了。包囲ももうすぐ済むだろう。相手はたったの四人だ。失敗するはずがない。
 やがて、階下から喊声(かんせい)が上がった。こえだめを覗くと、農業組合員四人の姿が見える。第二段階も完了だ。
「それじゃあ、さよならだ。組合長様」
 大根を掲げて、カンダタは跳んだ。


※第四章3『喰い込む牙』



「イクスが調べた通り、今から十三年前、クリストフは異種族外交官をしていた。もちろん相手はカンダタ族だ。その時に起こったロマリア、カンダタ間のトラブル解決のため、クリストフがカンダタの里に派遣された記録が残っている」
「トラブルというのは具体的にどういったものなんだ」
「きっかけは、カンダタの里でロマリアの人間が変貌したというものだ。事件の全容は知れないが、ロマリアはこれをカンダタの仕業と考え、カンダタ族の里からの立ち退きを要求した。当然そんな要求は呑めないと、問題はこじれにこじれたようだ」
 実際、事件の解決というよりもそれにかこつけたカンダタの追放という意味合いが強いだろう。要はカンダタ一族の格好が嫌なのだ。
「そして、何年もの時間を掛けてカンダタと接触する内に、なんとあるロマリアの男とカンダタの女が恋に落ちてしまったわけだ。嗚呼、何と皮肉な運命かっ」
 イクスが得意の芝居がかった口上を述べた。
「種族の差を越え、燃え上がる愛! しかし両者の親には当然その関係は許されず……。悲しみに枕を濡らす日々。逆境にますます加熱する二人の想い。そして二人はある決断を下した……」
「駆け落ちだ。しかしそれだけなら大した問題じゃない。厄介なのは、二人が消息を絶つと同時に、カンダタ族の至宝である『モヒカンの毛』が無くなったことだ」
「それはもう、カンダタにとっては大変なことだった。ロマリアでいう金の冠が盗まれたのと同じくらい、彼らにとっては大切なもんだったみたいだからね」
「致命的なまでに混迷した状況は、ついにカンダタに実力行使をさせた。九年前、ロマリアの北、カザーブからさらに北部にある町、ノアニールに、カンダタが呪いを掛けたのだ」
 呪いというのは、街中の人間がカンダタの格好になるというものだ。
「死を招くほどのものではないらしいが、とにかく呪いを解いてほしければモヒカンを返せ、というのがカンダタからの通達だ。しかしモヒカンを心の底から愛しているロマリアは、カンダタとの全面対決の姿勢を固めた。そして二年前、モヒカンへの愛情が成せる技か、クリストフは大臣の地位に上り詰め……今に至る、というわけだ」

「……どうでもいい問題だな」
 長い沈黙の後、グラフトが嘆声を漏らした。まったくもってその通りと、イクスは重々しく肯いて見せる。
「時間の無駄だ」


※第五章2『確信の核心』



「新入生の諸君っ! 入学式ご苦労じゃったな。わしはこのクラスを担当するデーレ・モンド・ロマリアじゃ。皆、敬意を込めて陛下と呼ぶように」

(本当に教師なのか、こいつは)

「ん? おお、君は確かシーザ君だったかね。入学試験で全教科満点を取ったらしいじゃないか」

「それが何か」

「わしはな、君のことを見込んでおるのじゃよ。どうじゃ、わしの代わりにこのクラスの担任をやってみる気はないか?」

「ありません」

「なに、ほんの一月、なんなら十日程度でもかまわん。どうじゃ? こんなチャンスはもう二度と無いぞ。優等生よ」

「お断りします」

「そうか! やってくれるか! 実はわしは『ドブ川で砂金取り部』の顧問もやっておるのじゃ。そっちの方も一緒に頼んだぞ」

「知るかっ」


※私立コリドラス学園その2



「ラーミアの伝説を知っているか」
 それにすぐさま反応したのはアリアだ。流石はルビス教徒といったところか。
「ラーミア……不死鳥ラーミアのことでしょうか。ルビス様が遣わされたという……」
「そうだ。ラーミアは聖鳥、魔王の結界も破れるはずだ」
 世界で最も広く信仰されている、精霊神ルビスを崇めたルビス教。その聖典の一節にこういう一文がある。

――んーと……まあなんか敵ってゆーかー、魔物とかのボス? みたいなのが出てきたらー……ん、あそうそう、魔王。魔王が出てきたらー、ラーメ……ラーミアとかいう鳥? それが何とかしてくれるとかって話聞いたわよー。うん。マジマジ。でねー、鳥だから飛べるんだってー。うん、多分――

 これは聖典の中でも有名な一説だ。ルビス教徒ならずとも知っている、一般常識に近い伝説である。
 それを聞いたイクスは露骨に顔を歪めて見せた。
「頭の悪い女子高生かよっ」


※第三章1『導指す道』



「……カンダタは、昔はああ(・・)ではなかったんです。活発な方ではありましたけど、それでもおかしな服は着ないし、ちゃんと顔も出していた……」
「……失礼ですけど、ちょっと想像出来ませんね。あいつのまともな格好……か」
「………」
 少し前のやり取りを思い出して憂鬱になってしまう。これが俺の正装だ、そう言った時のカンダタの顔が脳裏をよぎった。そして自分が未だ、彼の『素顔』というものを見たことが無いことに今更ながらに気付く。
 カンダタ母とカンダタ祖父。カンダタの二人の肉親は、同様に珍妙な覆面を被っていた。それを姿を見てなぜかふと、子供が万引きをして捕まって「うちの子に限ってそんな!」と無責任な定番セリフを吐く母親の姿を思い起こす。
「あの子が裸マントで過ごすようになったのは、八年前……夫が、町内会のボーリング大会でブービー賞を取った時からなんです」
 カンダタ母は重い口調で、カンダタの過去を語り始めた。


※第ニ章外伝1『冷たい瞳』



「凄い方なんですね」
「少なくとも、現存する賢者の中では最高の人物だろうな」
「んで、その賢者様とどういう関係なんだ? お前」
 イクスが横から口を挟む。
「さっきの門番と、やけに親しそうだったじゃんか。何度も足を運んでるんだろ?」
 彼の推理を、頷いて肯定する。
「八年前から、三日に一度は通っていた。バラモスを倒す 術(すべ) を得るために」
(どういう関係……三日に一度も……)
 その言葉に、アリアは思わず想像を巡らせた。


 高い塔の最上階。狭い部屋は二人の人間が入ればたちまち窮屈になって、少し動けば体が触れ合うほど。暑い日も寒い日も、三日に一度二人は出会う。ナジミの優しい態度に次第に心を開いてくるシーザ。二人っきりの密室。ふと止まる会話。見つめ合う二人。そして……、
「ああっ駄目! 駄目ですシズ様! そんなっ、そんな設定はっっっ!!!」
「何の話だっ」


※第ニ章4『儀の始まり』



「私立コリドラス学園へようこそ! 校長のイクス・ルーグだ。入学生の少女たち、これからあでやかなスクールライフを堪能してくれ。男どもはまあ『ドブ川で砂金取り部』にでも入ってテキトーに過ごせ。挨拶は以上。んじゃ、教員紹介〜」

「国語担当のプ・ロ・ス・コでぇ〜す♪ 三十六歳の独身でぇ、趣味は『しりとり』! じゃあ僕からいくよ! しりとりの『し』から。し……し……」

「死ね! ……よし。数学担当のガルガだ! ちまたでは『微積分のガルガ』って呼ばれてる。特技は掛け算だ。ちゃんと9の段まで言えるぜ!」

「美術担当のカンダタだっ! とりあえず全員俺と同じ格好をしろっ!」

「……音楽担当のグラフト・オデュッセ」

「……道徳担当のクローディオルだ。授業のテーゼは死と妄執についてを中心にやっていこうと思っている」


「……大丈夫なのかこの学園」
「大丈夫、シーザならきっとやっていけるわ。母さん、そう信じてるから……」
「その根拠の無い信頼は何なんだ何でちょっと遠い目なんだなぜ目を逸らすっ」


※私立コリドラス学園その1



「………。しかしそうなると、ありていに言って不可能ではないのか?」
 グラフトが苦渋を浮かべる。勿論自分は、わざわざ士気を下げるためにこんな話をしたわけではない。
「そうですね……。陸からも海からも入れないなら、空でも飛ばないことには」
 またもアリアが間の抜けたような言葉を吐く。が、
「そうだ。空から侵入する」
 この場合、それが正解だった。
「空って……まさかバシルーラでも使おうってんじゃないだろうな」
「さっき言った通り、ネクロゴンドには結界が張ってある。移動魔法での侵入は不可能だ」
「んじゃ、どうすんだよ」
「イカロスの伝説を知っているか」
 それにすぐさま反応したのはアリアだ。流石はオカルトマニアといったところか。
「イカロス……ギリシア神話の、ダイダロスの息子のことでしょうか。父親の作った翼で空を飛んだけど、高く飛びすぎたために翼を固めていた蝋(ろう)が溶けて、墜落したという……」
「そうだ。イカロスの翼なら、ネクロゴンドの山脈も越えられるはずだ」
「いや無理だろ」
「大丈夫だ。だってネクロゴンドは寒冷地だし」
「いや、無理だってば」
「大丈夫ですよ。蝋の変わりにご飯粒でくっつければ、熱くて溶けたりしません」
「………。仮にそれで飛べたとしても、結界があるんだろうがよ。どうすんだよ、それは」
「まあその辺は友情と努力でカバー……」
「できるか!」


※第三章1『導指す道』



「シャンパーニの塔はもう何百年も前から放棄されているんだ。それを奴らがたまたま見つけて勝手にアジトにしたんだろう」
「そうそう。そういや塔が放棄された理由って何だっけ? 何か複雑な事情があったよーな気がすんだけど」
 グラフトの問いに答えるのに、今度はイクスが訊いてくる。シーザは歩みは止めぬまま、三人に聞こえるように語り出した。
「……長い話になるが……」
 むかしむかし、シャンパーニというとても強いけんじゃがいました。シャンパーニは弟子といっしょに毎日毎日まほうのけんきゅうをしていました。
 そのけんきゅうの中で、たくさんのまほうをはっけんしたシャンパーニは、あぶないのでそれらを使ってはいけないまほうと決めました。しかし、弟子が決まりをやぶってしまいます。
「『ドラゴラム』と呼ばれる呪文だ。使い手に竜の魂を憑依させ、自らを竜と化す。術者はそれを使って、竜と成ることが出来た」
「成功したんですか?」
「いや、憑依した竜に精神を乗っ取られた」
 弟子はドラゴンにせいしんをのっとられて、山のように大きい体になりました。ドラゴンになった弟子がたくさんあばれたので、町はこわれてしまいました。シャンパーニはがんばってたたかいました。でも、ドラゴンはシャンパーニよりも強かったのです。
「そしてシャンパーニは最後の手段に出た。同じく禁呪に指定されている『メガンテ』を使うことで自分もろとも竜を滅ぼしたのだ」
 メガンテはシャンパーニしか使えない、とても強いまほうです。
「シャンパーニの使ったその呪文の威力は凄まじいものだった。竜と術者、街、その周辺にあった森林までも、根こそぎ消滅させる程にな。惨劇の責任を負わされる形で、塔の研究機関は解体された。そのまま塔は放棄され今に至る、ということだ」

「はあ……とりあえず、お前口調変わりすぎじゃねぇ?」


※第三章2『惑う夕暮れ』



「ボクはねぇプロスコって言うんだ。三十六歳の独身でぇ、趣味はしりとり! ハイ。じゃボクからね。『しりとり』の『と』から。と……と……とりのからあげ!」
「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」
「あ……あ……アリtoキリギリス煉獄の大決戦〜相克の空〜!」
「ラムサール条約」
「く……く……クリスマスイブ連続殺人事件〜マリア様が見てた〜!」
「タイト・コーナー・ブレーキング現象」
「う……う……ウルトラウーマンハナコ!」
「コルト・ガバメント」
「と……と……とりのいけづくり!」
「リード・オフ・マン」
「ん……ん……ンジャメナ!」
「ナハトコボルト」
「と……と……」

「ねぇ、それってどうやったら終わるの?」


※第一章2『選ばれし者』



「勝負あり、だ」

「勝負あり……だと?」
 剣(トランプ)を喉元に突きつけられたまま、グラフトは唸るように言った。
 油断は確かにあった。自分とシーザの力の差は明らかだったし、何より戦士(ギャンブラー)として十年生きていたという自負もある。負けるつもりなど無かった。
「これが真剣(勝負)であれば、お前は(ギャンブラーとして)死んでいる」
「だが! 魔法(イカサマ)を使うなど……」
 そう、彼は魔法(イカサマ)を使ったのだ。そうでなければ自分が負けることなど無かった。
 抗議の声に、少年は突きつけた剣(トランプ)を下ろし淡々と返す。まるでこういう言い合いになることを予測していたかのように。
「騙される方が悪いのさ」


※第ニ章1『剣交える』



 と、再びシーザがこちらを見つめていた。先程の出来事を思い出し気構えるアリアへ、何かを放ってくる。慌てて受け止めたそれは――ねこじゃらしだった。
 疑問符を浮かべてシーザを見やると、彼はアリアの左手の方向を指差した。その先に居たのは……灰色に黒いまだら模様の体毛を持つ猫、アメリカンショートヘアだ。アリアは脳内でシュレディンガーと名付けた。シュレちゃんは身を床に横たえ、眠そうに目を細めている。視線を再びシーザへ戻すと、彼はあくまで淡々と言った。
「じゃらしてみせろ」


※第ニ章3『心交える』



(八年前……か。あの少年がここへやってきたのは)
 正確ではなかったかもしれないが、正しい数字が必要だったわけでもない。重ねた時の数は覚えていなくとも、過ごした日々を忘れることはない。
 八年――少年にとってはそれまでの人生の半分だが、それでも充分な時間とは言えなかった。否、彼にとってはそれでも充分なのだろうか。
(カンダタの息子……カンダタと同じ血を継ぐ者。変態たる宿命を負う者達)
 一目見てカンダタの息子と解った。外見的に似すぎている。何よりあの覆面マントに半裸姿は、凡人に真似できるものではない。変態の魂は普通人のそれとは基本構造からして違うのだ。それは血の宿命であり、世の必然であった。
『私に、変態を極める(すべ)を学ばせて下さい』
 八年前の少年の言葉を思い出し、賢者ナジミは暗澹に耽った。
(他を当たってくれ……)


※第ニ章4『儀の始まり』



 眼。
 眼。
 眼。
 眼。

 アマガエルの眼。マダイの眼。
 ハゲワシの眼。コブラの眼。
 ダックスフンドの眼。オケラの眼。
 ジンベイザメの眼。シロナガスクジラの眼。

 向けられる視線に含まれる感情。全てが手に取るように解った。相手が何を思っているのか。何をしたいのか。何を求めているのか。意識せずとも自ずと知れる。

 俺に求められるもの。それは『動物学者』であること。


※第ニ章外伝1『冷たい瞳』