挿話 陽気な災厄


「クソッ……!」
 レプター・アイマンは苛立たしげに足元の小石を蹴り飛ばした。黒の短髪を掻き乱し、黒の両眼に激憤を込めて虚空を睨みつける。中肉中背の体にまとう空色のローブに触れると、ナイフの貫いた跡が出来ていた。そのことに怒りは一層強まっていく。
 最悪の日だ。今まで生きてきた中で、これほどの屈辱を味わったことは無い。

 アリアハンの勇者が魔王討伐に旅立つ。レプターがその話を耳にしたのは三年ほど前だ。
 これだ、と思った。自分の才能を真に発露させられる場所は、これしかないと。
 いかな国にも属さない独立機関『ダーマ神殿』の魔法使い修練学校を、レプターは主席で卒業した。いわば自分は選りすぐられたエリートの魔法使いなのだ。優れた才能はそれに相応した立場で発揮されなければならない。才能の無駄使いは一種の罪悪、それがレプターの信条だった。
 魔王――世界を混沌に陥れた諸悪の根源。これを倒すということはひとえに世界を救うということ。当然それを成すには相応しい人間の力が必要になってくる。まさに、自分のために整えられたかのような舞台ではないか。
(だと言うのに……!)
 いざルイーダの酒場へ行ってみれば、無愛想な勇者が唐突に面接を始めるなどと言い出す。それ自体は別に悪いことではない。自分としても足手まといが付いてこられては面倒だ。この旅は選ばれた人間だけが成し遂げられるのだ。自分のように。
 しかし面接が終わってみれば、合格者の中に彼の名前は無く、変わりに金髪の慇懃無礼な魔法使いが入っていた。
 ふざけるなと思った。ダーマのエリートであるこの自分よりも、初等魔法しか扱えない素人に毛が生えたような魔法使いの方が優れているというのか。あまりの憤りに気が狂いそうだった。
 だが考えてもみれば、勇者とは言っても十六の少年だ。面接をするとは言いながらも、たいした思慮も無く選別したのだろう。見た目からして強そうな戦士と、年齢の近い魔法使いと、おとなしそうな同年代の少女。子供らしい浅はかな選択だ。そんな人間に付いていかなかっただけ、マシだったと言えるかもしれない。
 レプターが今、腸を煮えくり返らせているのは、面接後に起きた一騒動が原因だ。
 エリッサ・スパニエル。一昔前にアリアハンを騒がせた盗賊バコタの相棒。現在も逃亡中で、多額の懸賞金も掛けられている(くだん)の盗賊が、あろうことか公衆の面前に堂々と姿を表したのだ。
 聖邪は常に合い争う運命にある。成り行きから、レプターとエリッサは衝突することになった。結果は痛み分け。酒場の店主であるルイーダの手により、決闘が止められたのだった。
 その手段がまた屈辱的だ。ルイーダは呪文を唱えようとしたレプターの口に目掛けて、リンゴを放り込んだのである。結局レプターは不満の捌け口を得られないまま、こうやってアリアハン市街を闊歩することになったわけだ。
 腹立たしい。無能な勇者も、低俗な魔法使いも、下劣な盗賊も。何もかもが腹立たしかった。
「こんなところに長居は無用……ダーマに帰ろう」
 レプターは高まった気を静めると、精神集中を始めた。行き先、ダーマ神殿の姿を心に強く思い描き、魔力を全身に行き渡らせ、呪文を発する。
「ルー……」
「ィィィィィィイヤッホゥゥゥゥゥゥ!!!」
 その時、横手から奇声と共に人影が踊りだし、レプターに衝突した。レプターは反応する間もなく、ぶよんという妙な弾力と共に真横に弾き飛ばされる。受身も取れず側頭をしたたかに石畳にぶつけた。
「っ痛……なんなんだ一体!」
 頭をさすりながら抗議の声を上げるレプターの前に、一人の男が立っていた。
「HAI! 皆のアイドル、プ・ロ・ス・コでぇぇぇぇす! 今日はぼくのために集まってくれて本当にありがとう。それじゃあ一曲目、『喪中のラヴ☆ソング』!」
 そんなことを言って、意味不明な歌詞を口ずさみ始めた一人の男。
 背の低い、肥満型の体型――さっきの妙な弾力はこいつの腹か!――を、目の痛くなるような派手派手しい原色の服で包んでいる。顔面をまるで道化師(ピエロ)のような化粧で塗りたくり、頭には服と同じ柄の三角帽子。
 ルイーダの酒場で同じく面接を受けていた、遊び人の男だ。
「かーれがー死んだのはーだーれのーせいー♪ よのなか? うんめい? いえきっとーわたしのつくった凄魔死(すまし)汁ー♪」
「おい、貴様! 一体何のつもりだ!」
「だからーわたしはーうたうのー♪ 黙祷にのせたーあいのうたー♪」
「聞いてるのかっ! くそっ、取り合えずその意味不明な歌をやめろっ」
「きみの遺骨にクラッシュエンド♪ 愛しい頭蓋にウォーハンマー♪ くだける音がーあなたへのラヴ☆ソング♪」
「………」
(いや、まて、嫌な予感がする。こいつにこれ以上関わらない方が得策かもしれない)
 第六感がそう告げるのに、レプターは忠実に従った。歌い続ける遊び人の男にくるりと背を向け、足早に歩き出す。
「てつのーかんおけーくさったーしたいー♪ いひんはーみぎうでーいかりのータトゥー♪ もちろんーかわをーはいだわー♪ あなたの(ひげ)剃りでー♪」
「……!」
 立ち去ろうとしたレプターの背中から、尚も耳障りな音が流れ込んできた。振り返れば、男が歌いながらぴったりと付いてきているではないか。
「くそっ!」
 レプターは妙な強迫観念に襲われながら、全力で走った。わき目も振らず、ただただ前へ疾駆する。が、
「きみの墓石に濃い口しょうゆ♪ せつない遺書にドラゴンブレス♪ はぜる炎がーあなたへのレクイ★M♪」
「つ・い・て・く・る・なぁー!」
 我慢ならず、レプターは面と向かって叫んだ。それに男――プロスコは笑顔のままだ。彼は頭の三角帽子を揺らしながら、街中に響くような大声で言った。
「こーんーにーちーっわ! ぼくはプロスコっていうんだぁ。三十六歳の独身でぇ、趣味はしりとり! じゃ、しりとりの『し』からね。し……し……シークレット・サークレット・ブックレット氏の甘い罠!」
 その声に負けじと、レプターも張り裂けんばかりの怒声を返した。
「なぜ俺に付きまとう!? 用が無いならとっとと消えろっ!」
「ろ……ろ……ロンダルキア・エクスプレス改!」
「いいかっ、俺は貴様のような道化と付き合っていられるほど暇人じゃないんだ!」
「だ……だ……だるまの幸せエンゲージ!」
「十数える間に立ち去れ! さもないと消し炭にしてくれるぞっ」
「ぞ……ぞ……ゾンビナースの救命病棟シリーズ第六弾『病室には腐敗臭ありき』!」
「……九……八……七……六……」
「く……く……クーラー廃絶運動家は基本的に笑い上戸!」
「五……四……三……二……」
「に……に……ニアミス・アイデンティティ!」
「一……ゼロ!」
「ろ……ろ……労働部ザ・リング灼熱の北海バトル〜未完の大義〜!」
 尚も意味不明の言葉を吐き続けるプロスコに意識を集中して、レプターは杖を構えた。といってもさすがに命中させる気は無い。あの目障りな三角帽子を燃やしてやれば、このいかれ男も尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。
 杖を掲げて、レプターは吼えた。
「ギラ!」
 呪文に応えて、杖先から閃光が(ほとばし)る。熱線は虚空を貫いて、遊び人の三角帽子を焼き尽くし――
「!?」
 気付いたときには、プロスコの姿は影も形も見当たらなかった。標的を見失ったギラの魔法が空しく霧散する。と、
「ラスト・サムライ・ファンクラブ通信!!!」
 背後からぶよんという弾力とともに強烈な衝撃がレプターを襲った。今度も反応できずに、石畳の上に顔面から着地した。
 レプターはわなわなと震えながら、ゆっくりとした動作で起き上がる。なるほど、激怒というのはこういう状態のことを言うんだな。怒り狂う頭の片隅で、妙に冷静に状況を分析している自分がいた。
 背後を見やるとそこには案の定、遊び人の男が妙なステップを踏んでいた。彼はおもむろに動作を止めると、こちらに顔をぐぐっと近づけ、
「やるねぇぇぇぇぇ君。ぼくにしりとりで勝つなんて! ご褒美に、君にはゴールド・プロスコ・メダルをあげよう!」
 そういって差し出されたものは、円状の板だった。木製の板の表面に『ごおるど☆それっぽいまんじゅう作れば特産品になると思ってんじゃねぇぞゴラァ』と書いてある。レプターはそれを全力で遥か彼方まで放り投げた。
「俺に何の用だ」
 子供が泣いて逃げ出し、老人はショック死しそうなほどの殺意に満ち溢れた眼差しで、遊び人を射抜く。結局はそれも、この男には徒労に終わりそうだった。表情に僅かな変化も見せないまま、プロスコはまた妙なステップを踏み始める。
「きみねー、ダーマにねー、いくってねー、言ってたじゃないー」
「それが、なんだ」
「だからねー、ぼくもねー、いっしょにねー、いきたいなーってねー、思ったんだよねー」
「ふざけるな。何で俺がそんなことを……」
「でねー、きみねー、ルーラをねー、つかえるねー、みたいだったからねー、らくできそうだなーってねー、思ったんだよねー」
 まどろっこしい言い回しにイライラしてくる。しかしここで追い払わないと、自分はダーマに行くことすらできない。我慢の上に我慢をしながら、話の続きを促した。
「あんた、ダーマには行ったことがあるのか」
「ないよねー、だってねー、いったことがあるならねー、わざわざたのむ必要ないもんねー」
(このクソヤロウ)
 血管が破裂しそうになりながらも、我慢の上の我慢の更に上に我慢をしながら、会話を続ける。
「なら、無理だ。ルーラという呪文の性質を知らないのか?」
「知ってるよー。ルーラっていうのはねー、ひき割りにしたオート麦に牛乳と砂糖を入れた食べ物でー、主に朝食にー」
「そっれっはオートミールだっ!!! 一文字も合ってない!」
「あっれー?」
 小首を傾げるプロスコ。手元でベキッという音がした。どうやら杖を握る手に力を込めるあまり、へし折ってしまったらしい。
 もうこいつには構ってられない。レプターは遊び人から距離をとると、ルーラの呪文を再開した。
 精神集中。魔力集中。人間は極限状態に陥ると、驚異的な能力を開花させるらしい。レプターは神のごとき速度でルーラの魔法を組み上げると、呪文を叫んだ。
「ルーラ!」
 今度こそ発動した魔法によって、全身が青い光に包まれる。そして次の瞬間、レプターの体は高々と空に舞い上がった。
 と、
 がしっ。大地を離れる直前、レプターの足首に何かが(・・・)しがみついた。刹那、頭の中にルーラの魔法の情報が駆け巡る。
 ルーラは瞬間移動魔法の代表的なもので、精神集中を主体とした魔法だ。目標とする地点に対し、明確かつ鮮烈なイメージができない限り、その地まで移動することができない。つまり絵画や人の話でいくらその地の情報を集めたところで、実際に行ってみないことには移動は不可能なわけだ。
 それは複数の人間が同時に移動する場合も一緒だ。移動対象となる全員が同一のイメージを意識しない限り、ルーラは成功しない。もしも不明確なイメージのまま呪文を発動すれば、術者の意識しないデタラメな方角へ飛ぶことになる。

 そう、たとえば、ルーラを発動した瞬間に、行き先に対する何のイメージも抱いていない遊び人の男が足にしがみついてきたりすれば。

「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 絶叫をアリアハンの地に残して、レプターとプロスコの二人は遥か彼方に吹っ飛んでいった。



「……っ!」
 弾かれたように、レプターの意識は混沌とした暗闇の中から飛び出した。瞼を開いた先に見えたものは木で造られた天井。背の感触が柔らかい。ベッドの上に寝かされていることを覚るのに、若干の時間がかかった。
「ここ……は……?」
 目を覚ました場所、そこは宿屋の一室らしきところだった。手広い室内にベッドが二つ。大きな窓に映る景色には、何と雪がちらちらと見えた。アリアハンの今の季節は春。ということは、ここは……?
「あ、気が付きましたか?」
 そう言って部屋の扉が開いた先に現れたのは、年のころ二十代半ばくらいの純朴そうな女性だった。女性は温和な笑みを浮かべて、ベッド脇の椅子に腰掛ける。
「あなたはもう、丸一日眠ってらしたんですよ。大丈夫ですか? 随分と憔悴なさっていましたけど……」
「えっと、ここは? あ、あなたは――」
 未だ混乱した思考のままで、レプターは何を聞くべきか迷った。その様子に女性は落ち着いた声で、
「ここはムオルの村です。私はこの村の宿屋を経営している、メアリと言います。昨日、宿の裏手にある雪山ですごい音がして、何があったのかと見にいった所に、あなた()が雪の中に倒れこんでいたんです。それで、こちらの宿へ……」
 ムオル――レプターは脳内で地図を広げ、村の所在を探った。ムオルといえば、アリアハンから遥か北にある辺境の地だ。そんなところまで飛んでしまったのか。
(いや、飛んだ? なぜ俺はこんなところに?)
 ルーラを使ったのは間違いない。しかし、その前後の記憶が曖昧になっていた。何かとてつもない悪夢を見たような気がするのだが……。
「悪夢……、そうだ。悪夢に違いない。あれはきっと、ただの悪い夢だったん」
「おきたかい〜! おっはよぅ! 今日もぼくのためにこんなにたくさんの人たちに集まってもらって、プロスコとっても感激だよ! じゃあ最初の曲、『渚のマーメイド狩り』! レディ・ゴゥ!」
 がばっ。レプターは布団をかぶって、その目に映った三十六歳独身の男の姿を覆い隠した。
「何も見えない何も聞こえない何も分からない」
「いけー♪ 剥ぎ取れー♪ こそぎ取れー♪ 人と魚の分断作業ー♪ 魚はもちろんいけづくりー♪」
「あああああああああっっっ!!!」
 レプターは跳ね起きて、プロスコの胸倉を掴み上げた。
「くそっくそっくそぉっ! 何なんだ貴様はっ! この疫病神めっ!」
「え、神ー? 照れるなー」
「言葉尻だけ持ってきて喜ぶんじゃねぇぇぇ!」
 ぜえはあと息を継ぎながら、ふと部屋を見回すと先程の女性の姿が無かった。よくよく見れば、椅子の上に何やら書置きらしきものがある。何気なくそれを手にとってみた。

 請求書
  宿代 二泊×二部屋  480G
  食事代 十八食分  1289G

  計         1769G

「……は?」
 五分ほど、その紙を眺めていた。手のひらくらいの紙を、上から下まで何度も何度も読み返す。
 ぐるりと首を回して、また部屋の中で妙なステップを踏み始めている遊び人に目をやる。すると彼は呑気にあくびをしながら、
「ここの宿って食事がおいしいらしいよー」
「な・に・を・言ってるんだっ! 何だこの請求額はっ! 二泊に二部屋だとっ!? いや、それはともかく、十八食ってのはどういうことだおいっ!」
 激しく詰め寄りながら猛抗議するレプターの様子をとぼけた様子で眺めながら、プロスコは言った。
「ぼくおかねもってないからさー」
「はあああああああああ!?」
 レプターはどこから声を出したのか解らないような奇声を上げた。慌てて財布を取り出し、所持金を検める。……計、585ゴールド。
「………」
 青ざめた顔で、プロスコの方を呆然と見やる。彼は口笛を吹きながら、妙なステップを踏んでいる。
「お食事をお持ちしました」
 先程の女性が、トレイを持って再び部屋に入ってきた。レプターはもう何をどうしたら良いか解らない。虚ろな視線でただ成り行きを見守っていた。
 プロスコはステップを止めると、何を思ったか女性の背後にススッと近づいた。かと思うと、おもむろに女性の下半身に手を伸ばす。
「やめっ」
「きゃああああああああああっっっ!!!」
 宿屋中に響き渡るような悲鳴と共に、レプターの顔面にトレイが飛んできた。暖かい食事がレプターの全身にぶちまけられる。
 女性は猛ダッシュで部屋から出て行った。階下から、「変態っ! 変態よ!」という声が聞こえてくる。
 続いて「変態だとっ!」「不貞の輩め、なぶり殺しにしてくれる!」「自警団に召集をかけろ! 生きて帰すな!」という声がぞくぞくと聞こえてきた。
「ああ……」
 もう何が何なのか解らない。一体自分は何をしていたのか。何故こんな状況に追い込まれているのか。
 唯一つ確かなのは、すべての元凶は目の前の男だということ。
「よしっ、にげよー」
 元凶たる男に右手を引っ張られながら、レプターは窓を突き破って表へ出た。
「いたぞっ、あそこだー!」
「おのれ、変態どもめ。我が怒りの剣、受けてみよ!」
「第八小隊は南へ回れっ! 包囲網を敷くんだ!」
「火矢を射れっ! 家の一軒や二軒焼いてしまっても構わん!」
「村のアイドル、メアリさんに手を出した者がどうなるか、思い知らせてやる!」
「なんなんだなんなんだなんなんだ――――!!!」
 異常な展開に、レプターはもう何が正しいのか解らなくなっていた。闇雲にただただ逃げ回る。隣でスキップをするプロスコは、変わらず口笛を吹いていた。
 前方から、横手から、背後から、怒涛の勢いで武装した村人が迫る。まるで熟練された軍隊の如き足並みで、武器を天にかざし、喊声(かんせい)を上げる。
「血祭りに上げろっ」
「八つ裂きだっ」
「殺せっ!」
「殺せっ!」
『殺せっ!!!』
「あああ……」
 八方塞だ。そもそも何でこんな状態になったんだ? 俺が何をした? 何で目を血走らせた武装集団に取り囲まれなけりゃならないんだ?
「みんなっ、今日はぼくのために集まってくれて……」
「言ってる場合かぁぁぁっ!!!」
 プロスコを殴り倒して――正確には殴り倒そうとしてかわされたのだが――レプターは絶叫する。目には涙すら滲んでいた。この状況、どうしろというのだ。
 しかし遊び人は未だ笑い顔を崩さず、こともなげに言ってみせる。
「それじゃ、ルーラしよっか」
「……ルーラ? この状況で?」
 ルーラは精密な精神集中が不可欠な呪文だ。そのため、戦闘中などの極度のストレス下では扱えない。ましてや、周囲から殺意剥き出しの群集に詰め寄られた状況で成功するわけが……、
(いや、もう生き残るにはそうするしかないのか……?)
 迫る群衆。突きつけられた無数の白刃。膨れ上がる殺意。笑う道化師。
(ああ、そうか。これが本当に『最悪の日』なんだな……)
 全てを諦めて辿り着いた場所にあった小さな真実。それを胸に抱きながら、レプターは叫んだ。
「ルーラァッ!!!」
「ばいばーい☆」
 絶叫をムオルの地に残して、レプターとプロスコの二人は遥か彼方に吹っ飛んでいった。



 悪夢はまだ、終わらない。








目次